古代編

(『加賀市歴史文化学習帳』より)

 

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加賀市には、縄文(じょうもん)弥生(やよい)古墳(こふん)時代を中心とした埋蔵(まいぞう)文化(ぶんか)(ざい)遺跡(いせき)が、これまでにおよそ850ヶ所余りが確認されており、この数は、県内でも1,2を争う数を誇っています。

 

 古代遺跡が多いということは、この地域が、水に恵まれた自然豊かなところであり、とても住みよい土地であったとも言えます。

 

私たちのふるさと加賀市で、最も古い人類の痕跡は、宮地(みやじ)町にある琵琶ヶ池(びわがいけ)の近くで見つかった宮地(みやじ)向山(むかいやま)遺跡です。この遺跡は、旧石器時代(今からおよそ1万3千年以上も前)のものですが、ここからは石刃(せきじん)掻器(そうき)などが見つかっています。また、橋立丘陵地で発見された縄文時代早期(今からおよそおよそ9千年前)の橋立大野山遺跡からは、県内最古の土器が出土しています。

 

 市内の850余りの遺跡の中には、国の史跡に指定されています勅使(ちょくし)町の法皇山(ほうおうざん)横穴群(よこあなぐん)二子塚(ふたごづか)町の狐山(きつねやま)古墳をはじめとした、全国的にも有名な遺跡があります。それでは、このあとは、縄文、弥生、古墳の各時代を代表する市内の遺跡を順に見ていきましよう。

 

 

テキスト ボックス: 縄文時代 

 

今から約1万2千年前から約2千4百年前を「縄文(じょうもん)時代」とよんでいますが、この時代の遺跡の中で特に特徴的なものとしては、「柴山(しばやま)水底(すいてい)貝塚(かいづか)遺跡(いせき)」「柴山(しばやま)貝塚(かいづか)遺跡」「(よこ)(きた)遺跡」「(ふじ)()遺跡」などをあげることができます。

 

昭和39年、柴山(しばやま)(がた)干拓(かんたく)工事(こうじ)の際に湖底(こてい)約6メートルのところで柴山水底貝塚遺跡が発見されました。ここからは無数(むすう)の貝類や土器片(どきへん)約200点、人骨(じんこつ)などが出土(しゅつど)しました。

 

一方、柴山(しばやま)町の北側、標高30メートルの台地でも縄文中期の柴山貝塚遺跡が発見されました。ここからは、三角(さんかく)(とう)(けい)()製品(せいひん)をはじめ、8戸におよぶ住居(じゅうきょ)(あと)が発見され、そのうち4戸には石囲いの()(あと)も確認されました。

 

動橋(いぶりはし)川のなかほど、東谷口(ひがしたにぐち)地区の水田の中から数多くの石器(せっき)土器(どき)が発見されました。これが縄文時代後期の(よこ)(ぎた)遺跡です。出土遺物の中では、特に、県内でも珍しい、菱型(ひしがた)をした(ちゅう)(こう)土器や呪術(じゅじゅつ)用具(ようぐ)とも考えられている異形(いけい)土製品などが出土しています。

 

大聖寺川右岸(うがん)(あた)りで発見された(ふじ)()遺跡(いせき)は、県内でも最多(さいた)の縄文中期の土器(どき)が発見されたほか、(せき)()やきれいな石でつくられた装身具(そうしんぐ)などが多数出土しました。

 

 

 

テキスト ボックス: 弥生時代 

 

今からおよそ2,500年前、日本ではじめて稲作(いなさく)がおこなわれるようなりました。弥生(やよい)時代(じだい)のはじまりです。米づくりをするようになって人びとは定住(ていじゅう)生活(せいかつ)をはじめるようになりました。当地域にも稲作が行なわれたことが柴山出村遺跡や(ねこ)(ばし)遺跡で確認(かくにん)されました。

 

 柴山出村遺跡は弥生時代後期の遺跡で、北陸では最も古い籾や県内最古の弥生式土器が発見されました。また、隣接して柴山水底弥生遺跡も発見されたことから、この周辺では、柴山潟沿岸の湿地をそのまま利用した原始的な稲作が採り入れられていたと考えられています。

 

一方、猫橋遺跡は、市内合河町(あいかわまち)八日(ようか)(いち)川にかかる猫橋付近を中心としたい地域で発見された生時代後期の遺跡で「北陸の()()遺跡(いせき)」とも(しょう)される有名(ゆうめい)な遺跡です。この付近では、田んぼを()ると水が()き出るほどの湿地帯(しっちたい)で、このような環境(かんきょう)(もく)製品(せいひん)などを「水づけ」のまま(なが)保存するなどの好条件(こうじょうけん)をうみ、1,800年前のしゃもじ、くわ、はしごなど、貴重(きちょう)木製(もくせい)(ひん)が、ほぼそのままの形で発見されました。また、(いね)づくりを示す炭化(たんか)した米粒(こめつぶ)や大きな柱を使ったと考えられる倉庫(そうこ)(あと)平地(へいち)における住居跡、さらには方形(ほうけい)(しゅう)(こう)()確認(かくにん)され、こうした数々の遺構(いこう)や出土物から、この時代、当地には、すでに村を統率(とうそつ)する首長(しゅちょう)が存在していたと思われます。また、この遺跡から出土した土器(どき)の形から、山陰(さんいん)文化との結びつきが極めて強いことも分かりました。

 

 

テキスト ボックス: 古墳時代 

 

 3世紀後半から7世紀におかけての古墳時代、当地方でも多くの古墳がつくられています。古墳は力のあった豪族や一族のお墓で、加賀市では、特に分校町の国道8号線付近や吸坂町から黒瀬町に至る丘陵地などで数多く確認されています。また、片山津玉造遺跡や国指定史跡で法皇山横穴群や狐山古墳などは全国的によく知られた古墳時代を代表する遺跡です。

分校(ぶんぎょう)町から松山(まつやま)町にかけての丘陵地には40基あまりの古墳が密集(みっしゅう)しており、全体を分校古墳群と呼んでいます。この古墳群は、分校前山(まえやま)古墳群、分校()墓山(はかやま)古墳群などの支群に分かれていますが、特に、分校前山古墳群からは中国製で、大和朝廷が江沼の王に与えたものではないかとされる「()()(もん)(えん)方格(ほうかく)(きく)(神鏡」と称する当地方では最も古い鏡が発見されています。(

 

 

()n南郷町から吸坂(すいさか)町、上河崎(かみかわさき)町にかけての丘陵地(きゅうりょうち)には、およそ85()もの古墳が密集しており、南郷・黒瀬(くろせ)古墳群と呼ばれています。このうち、支群(しぐん)である吸坂(すいさか)丸山(まるやま)古墳群(こふんぐん)からは、鉄製(てつせい)(かぶと)をはじめ、鶏形(にわとりがた)土製品や金製(きんせい)の耳環など、貴重(きちょう)副葬品(ふくそうひん)が出土しています。

 

 市内片山津町(かたやまづまち)の西側の台地(だいち)では、昭和34年、35年の発掘(はっくつ)調査により、4世紀から5世紀前半(ぜんはん)にかけての玉造(たまつくり)職人集団が住んでいたとされる片山津玉造遺跡が発見されました。ここでは、33基の住居と工房(こうぼう)()ねた竪穴式(たてあなしき)住居(じゅうきょ)(あと)が発見され、首飾(くびかざ)りなどの装飾品(そうしょくひん)に使う(くだ)(たま)勾玉(まがたま)などの玉類(ぎょくるい)製造(せいぞう)していたと考えられています。ここで使用されていた原石(げんせき)の多くは緑色凝(りょくしょくぎょう)(かい)岩質(がんしつ)(けつ)(がん)で、これらは動橋川の上流(じょうりゅう)採取(さいしゅ)したものと考えられています。

 

 一方、昭和7年に、二子塚(ふたごづか)町地内で、動橋川の堤防(ていぼう)工事のために必要(ひつよう)とする(つち)()りをしていたところ、箱型(はこがた)石棺(せっかん)が発見されました。調査の結果、5世紀中頃の前方後円墳(ぜんぽうこうえんふん)だと分かりました。これが、現在、(くに)指定(してい)史跡(しせき)となっている狐山(きつねやま)古墳です。石棺の中からは、成人(せいじん)男子(だんし)人骨(じんこつ)のほかに銅鏡(どうきょう)()文帯(もんたい)(しん)(じゅう)(きょう)」や銀製帯(ぎんせいおび)金具(かなぐ)(かたな)などが発見されました。これらの副葬品から畿内(きない)勢力(せいりょく)との強い結びつきがうかがえ、この地域の統治(とうち)に成功した江沼(えぬの)(おみ)の一族に係する古墳ではないかと考えられています。なお、この狐山古墳のすぐ近くから、(たて)を持った人物(じんぶつ)埴輪(はにわ)も発見され、北陸地方では(きわ)めて(めずら)しいものとされ、こうした出土品は、現在、東京(とうきょう)国立(こくりつ)博物館(はくぶつかん)保管(ほかん)されています。

 

 また、勅使(ちょくし)町では、大正11年に考古学者の上田(うえだ)三平(さんぺい)により、6世紀中頃から7世紀末にかけて法皇山(ほうおうざん)横穴群(よこあなぐん)が確認され、昭和4年には国の指定(してい)史跡(しせき)となりました。法皇山の(ふもと)中腹(ちゅうふく)には、現在までに80基あまりの横穴(よこあな)確認(かくにん)されており、古くは、原始人(げんしじん)()らした洞窟(どうくつ)だとか、宝物(たからもの)(かく)し場所などと言われていましたが、調査の結果、古代人(こだいじん)埋葬(まいそう)した横穴(おうけつ)()であることが分かりました。これらの横穴の数は、(くわ)しく調べれば、(おそ)らく200基以上はあるだろうと考えられており、日本海側では最大級の横穴古墳群として知られています。この古墳に(ほうむ)られた人々は、動橋(いぶりはし)(がわ)中流域に住んだ当地域の有力な一族の墓地(ぼち)と考えられます。

 

なお、富塚(とみつか)(まち)にも、富塚丸山(まるやま)古墳(こふん)と呼ぶ大きな古墳の一部が残されていますが、もしもこれが前方後円墳であったとすれば、手取川以南最大の古墳であったといえます。富塚に(ねむ)る王も、江渟(えぬの)(くに)君臨(くんりん)した大きな力を持つ権力者(けんりょくしゃ)だった可能性(かのうせい)があります。

 

 
  テキスト ボックス: 飛鳥・奈良時代

 

6世紀中頃に朝鮮(ちょうせん)半島(はんとう)より仏教(ぶっきょう)伝来(でんらい)し、畿内(きない)は次々と古代(こだい)寺院(じいん)建立(こんりゅう)されるようになりました。江沼地方においても、有力豪族(ごうぞく)たちがこれまでの古墳(こふん)に代って、氏寺(うじでら)建立(こんりゅう)するようになったと考えられており、現在、この時代に建てられた寺院として、宮地(みやじ)弓波(ゆみなみ)津波倉(つばくら)保賀(ほうが)高尾(たかお)の5ヶ所から(かわら)土台(どだい)(いし)など寺院跡と思われる出土物(しゅつどぶつ)遺構(いこう)確認(かくにん)されています。特に、宮地(みやじ)町と篠原(しのはら)町との間の水田の中に「じょうじゃのかま」と呼ばれる大きな石があり、宮地廃寺の(とう)(しん)()に使われた石とされています。同じく、弓波町の忌浪(いみなみ)神社で使われている手水(ちょうず)(ばち)弓浪(ゆみなみ)廃寺(はいじ)の塔心礎に使われた石とされています。

 

大宝(たいほう)律令(りつりょう)の制定(701 年)により江沼地方は「越前(えちぜんの)(くに)江沼郡(えぬまぐん)」となりました。その後、弘仁14年(823)に加賀国が越前国より独立し、江沼郡の北半が能美郡として分立すると、新しい江沼郡には、長江(ながえ)忌浪(いんなみ)(やま)(しろ)竹原(たけはら)額田(ぬかだ)菅浪(すがなみ)八田(やた)三枝(さえぐさ)の8(ごう)、または郡家(ぐうけ)(ごう)を加えての9郷()かれました。ては江渟(えぬの)(くに)首長(しゅちょう)で、6世紀後半頃から国造(くにのみやつこ)の地位を世襲(せしゅう)した江沼(えぬ)()は、律令(りつりょう)体制(たいせい)の中で郡司(ぐんじ)として地方行政官に位置付けられ、西島(にしじま)遺跡は、建造物(けんぞうぶつ)の規模や出土品などから、一般住宅とは考え(がた)く、律令制下の(ぐん)の中心官庁である郡家(ぐうけ)もしくは有力(ゆうりょく)豪族(ごうぞく)などの住居として使われたものではないかと考えられています。

 

この時代、国家統一の機能(きのう)確保(かくほ)し、中央と地方の連絡(れんらく)円滑(えんかつ)になされるために、交通路が整備(せいび)されました。当地では、古代官(こだいかん)(どう)である「北陸(ほくろく)(どう)」と、その中継(ちゅうけい)機関(きかん)として「(えき)」が設置(せっち)されました。江沼郡域では、越前(えちぜん)から加賀(かが)に入ると、先ず朝倉駅(あさくらえき)」に、その次に「潮津駅(うしおつえき)」に出て、小松の安宅(あたか)へと()けていきました。

 

 奈良(なら)東大寺(とうだいじ)正倉院(しょうそういん)文書(もんじょ)のなかに、天平(てんぴょう)12年(740)の「越前(えちぜん)(こく)江沼郡山(えぬまぐんやま)(しろの)(ごう)計帳(けいちょう)」の一部が残っています。計帳(けいちょう)とは、戸籍(こせき)と並ぶ律令制の基本(きほん)(ちょう)簿()で、人民(じんみん)から(ぜい)をとるための台帳(だいちょう)として作成されました。特に、山背郷計帳は、北陸道に関する唯一の籍帳(せきちょう)(戸籍と計帳)であり、江沼(えぬの)(おみ)(やから)一族(いちぞく)を家族単位でリスト化したもので、氏名や家族関係、その人の特徴(とくちょう)までも記録(きろく)されておりとても興味(きょうみ)深いものです。

 

 このほか、正倉院文書の中には、(ぜい)として収める(いね)(もみ)比率(ひりつ)などを記載(きさい)した「越前国正税帳(しょうぜいちょう)」や「越前国(ぐん)稲帳(とうちょう)」なども残されており、これらの文書は、当地域の社会構造(こうぞう)を知るうえに貴重(きちょう)な資料となっています。

 

 

テキスト ボックス: 平安時代 

 


 平安時代に入ると仏教(ぶっきょう)がますます(さか)んになり、古来(こらい)よりの白山(はくさん)信仰(しんこう)が、思想(しそう)(むす)びつきました。当地域では、柏野寺(かしわのじ)温泉寺(おんせんじ)極楽寺(ごくらくじ)小野坂寺(おのざかじ)大聖寺(だいしょうじ)の五つの寺院が「白山五院(ごいん)と呼ばれ、白山信仰の拠点地(きょてんち)として建立(こんりゅう)されたことが平安後期の書『白山之記(しらやまのき)』に記載(きさい)されています。この5つの寺院のうち、温泉寺は現在の山代温泉(やく)王院(おういん)だとされています。また、極楽寺は大聖寺畑町(はたまち)に、大聖寺は、現在の(きん)城山(じょうざん)から荻生(おぎゆう)(まち)にかけての山の上にあった寺院と考えられています。このほか、「白山三箇寺(さんかじ)」として()谷寺(たでら)(小松市那谷町)、()谷寺(だにでら)(加賀市宇谷町)、(さかえ)谷寺(だにでら)(加賀市栄谷町)があり、この頃、当地方は白山信仰の中心地となっていたことをうかがい知ることができます。                                                                             

 

 現在、山代温泉薬王院に安置(あんち)されている「木造(もくぞう)十一面(じゅういちめん)観音像(かんのんぞう)」は、もと大聖寺慈光院(じこういん)本尊(ほんぞん)として(まつ)られていましたが、戦国時代、大聖寺城主山口玄蕃(やまぐちげんば)が前田(とし)(なが)()(ほろ)ぼされた際に、池の中に投げ入れられ(なん)(のが)れたと伝えられています。明治(めいじ)維新(いしん)後、同じ白山五院のひとつであった薬王院に移されたものです。平安末期の白山信仰の地仏(ほんちぶつ)として貴重(きちょう)仏像(ぶつぞう)であり、現在、石川県の有形文化財に指定(してい)されています。

 

また、律令体制下で江沼郡を代表する有名な地方豪族(ごうぞく)地位(ちい)(たも)っていた江沼氏は、平安時代に入ると、郡司層の中に(あらわ)れなくなりました。平安前期には京都の下級貴族、中期になると下級役人としてその名が見えることから、江沼氏の本流(ほんりゅう)は平安時代になってから地元を離れて京都に移り、結局は下級役人になってしまったようです。その江沼氏に()わり、後期になって(あたら)しく台頭(たいとう)した豪族が土着(どちゃく)した国司(こくし)末裔(まつえい)である大江(おおえ)()でした。このように古代から中世への移行期(いこうき)に、(ざい)()における有力土豪(どごう)として勢力(せいりょく)()ばしたのは、大江氏のような外来(がいらい)勢力(せいりょく)でした。

 

(かん)()4年(1090)に加賀(かがの)(かみ)であった藤原(ふじわら)為房(ためふさ)が、加賀国府(こくふ)から淡津(あわずの)(とまり)を中継点として敦賀(つるが)津へ()かった記があり(『為房(ためふさ)卿記(きょうき)』)、貴族(きぞく)たちが、京と加賀往来(おうらい)(ふな)(うん)を利用していたことが分かります。中世後期の江沼郡の(りゅう)通路(つうろ)は、額田(ぬかだ)十日市(とおかいち)八日市(ようかいち)七日市(なのかいち)等の庄園(しょうえん)市場(いちば)(つな)内陸(ないりく)横軸(よこじく)と、日本海沿岸(えんがん)安宅(あたか)(みなと)(たけ)()(うらの)(とまり)(つな)河川(かせん)を通じた縦軸(たてじく)をもっていたといえます。